お昼過ぎ、4時限目の講義に出るため、大学に向け自転車を走らせます。土曜日の講義は4、5時限だけなのですね。
大学のある通りに出ると、パトカーが反対車線から走って来るのが見えます。それを見ると、そわそわしてまいりました。それと言うのも、今乗っている自転車が盗品であるためなのです。
半年ほど前に自分の自転車を盗まれまして、その代わりとなるものを駅の無料駐輪場から、なるたけボロいのを選び、拝借してきたのですね。
パトカーはそんなおさかなの心中に気付くわけもなく、後方に遠ざかっていきました。ほっ…とおさかなは胸を撫で下ろします。
ふとイヤホンで聴いている音楽に違和感を覚えました。なにかもじゃもじゃと妙な音が混じるのです。そこでイヤホンを外し、後ろを振り向いてみると
「…りなさい。そこの自転車、止まりなさい。そこの自転車!止まりなさい!」
なんと先ほどすれ違ったはずのパトカーが、真後ろで、止まりなさいコールをしているじゃありませんか。
Σ(゜Д゜;)ニギャー
臆病もののおさかなは、とんずらこくことも無くその場でそく停止してしまいました。パトカーから2人のお巡りさんが出てきて、質問を浴びせてきます。
「その自転車、鍵がついてないみたいだけど、どうしましたか?」
「鍵は前カゴに入ってます」
「防犯登録はしてありますか?」
「はい、してあります」(昔の持ち主がしたのだけれど)
防犯登録のシールに県外の町の名前が記されているのを見たお巡りさんは、おさかなを下宿の学生だと判断し、さらに質問を続けます。
「実家はどこですか?」
「●の■です」
「この防犯登録に書いてある場所と違うね」
「ぉ…ぇ…この自転車、友達にもらったんです」(友達って誰だー!?)
おさかなは心の中で、ベタベタな発言をする自分にツッコミを入れつつ、なんとかうまく質問に答えるため頭を働かせようとします。しかし、頭はすでにパニック状態です。もじゃもじゃのぐじゃぐじゃで、自分にツッコミを入れることしか考えられません。
(゜∀゜;)
「友達ってえ、その友達はどうして君に自転車をくれたの?」
「…ぅぃ…いなくなる…あ、いや、卒業しちゃうからです」(もうだみだ~)
「その友達はなんていう名前?」
びしびしと的確な質問を浴びせ、おさかなを切り崩していくお巡りさん。
「あ、あの、すいません。嘘つきました。この自転車、盗みました」
といったところで、おさかなゲームオーバーです。あえなく御用となり、お近くの警察署までご同行願われました。
(´∀`)
自転車は没収され、片方のお巡りさんが署まで漕いで行くことになりました。おさかなはもう1人のお巡りさんとパトカーに乗り込みます。パトカーに乗るのは初めてなのです。これはなかなか貴重な体験だやなあと、自分の置かれた状況をプラスに持っていこうと考えてみます。署に着くまでの間はお巡りさんと、雑談を交えつつ自転車を盗んだことについて話しました。
署では申請書といって、自分のしたことを細かく報告するための文を書かないといけないみたいなのです。でもなぜか、下書きはお巡りさんが考えてくれました。これはお巡りさんの親切と捉えて良いのでしょうか。威厳のある、良い人そうなおっちゃんでした。
しばらくすると、没収された自転車を漕いで、もう1人のお巡りさんが帰ってきました。メガネをかけた30代位の小太りな方です。やや目が釣りあがっていて、ほんのり怖い感じです。
「もう終わりだ~」
申請書の清書をしていると、メガネ兄さんが何事か声をあげました。
「ダメか」
おっちゃんが返します。
「完全にダメです」
見ると、なんでそんなになったのかはわからないのですけれど、メガネ兄さんのメガネが、鼻にかける部分を中心にして、真っ二つに折れてしまっていたのです。
「これ瞬間接着剤じゃくっつきませんよねえ」
「あー、そりゃマッチ棒でも使って添え木しとかないと無理だろ」
メガネが割れた、メガネが折れたなど、メガネネタが大好きなおさかなは笑いたくてしかた無いのです。
「これ高かったのになあ…」
メガネ兄さんが残念そうに言葉を洩らしました。
申請書が完成したら、おさかなは没収された自転車と一緒に写真を撮られました。次に、自転車を盗んだ現場に行って、そこでも写真を撮られました。それからおさかなの家の確認をしに、家の前までやって来ました。ほんとはこの後、警察署で身元引受人が来るまで帰ることは許されないらしいのですけれど、その身元引受人である親が遠くにいることから、帰してもらえることになりました。ただ、身元引受人が書かないといけない書類があるので、おさかなはそれを書いてもらうために、実家に戻らないといけないことになりました。その書類はまた後日、警察署に届けるのです。書類といってもA4の紙1枚で、書かなければならない項目は3、4個だけなのです。
時間は17時を回っていました。今からなら途中からですけれど、5時限目の講義に出られます。お巡りさんに大学の近くまで送ってもらい、講義に出ました。友達には寝てたんだろと言われました。だはは。今日はこの後、すぐ実家に戻らないといけないので、理由を話せなかったのですけれど、後日、友達にお話しするのも楽しみなのです。
今回、御用になったということで、前科一犯になると思いきや、そうでもないみたいです。「前科一犯自転車ドロボウ」という肩書きはなかなか間抜けな響きで良いかとも思ったのですけれど、将来のこと考えるとこれで良かったのですのよね。
先日のプロテスタントといい、夢のような変な出来事が続くのです。
実家に着き、ふと父上が飲んでいた2.7リットル入りの焼酎のラベルに目をやりますと、そこには大きく力強い文体で御用と記載されておりました。なんなのだこのマンガみたいなオチは。
(゜∀゜;)